先日行ったリペア作業をご紹介します。
ヴィンテージのグレッチ、テネシアンです。
今からおよそ50年前に作られたギターです。
ライブでバリバリ使えるように、ということでした。
まずは診断です。
ネック回り、アッセンブリー(配線)関係を重点的にチェックしていきます。
長年の使用、すり合わせにより、フレットの頂点が平らになっています。
これではピッチ(音程)が不安定になったり、ビビりの原因になったりします。
高さが十分にあるフレットであれば、再度、頂点を出し直すこともできますが、今回はそれが難しそうでしたので、このフレットは打ちかえます。
ナットの溝も摩耗しており、このままでは良い状態での使用は難しいのでこちらも交換になります。
それ以外にも、トラスロッドの利き具合等をチェックし、作業に入ります。
改造した「喰いきり」という道具を使い、フレットを抜いていきます。切っている訳ではなく、指板とフレットの間に喰い切りの刃を潜り込ませるようにして抜いていきます。
これは指板の木材がめくれてしまうのを防ぐためです。
その後、指板上のR(カーブの具合)と直線をヤスリで整える作業をします。(写真は整えた後)
このギターに限った事ではありませんが、この工程は『やりすぎ』は厳禁だと思います。
削れば削るほど、ネック全体の厚み、質量が変わってしまうので、握り心地やサウンドに影響してしまいます。
その後、小さなノコを使い、溝の『幅』と『深さ』を整えます。
一見地味な作業ですが、非常に重要な工程です。
また、指板の溝の幅と、フレットのタング(溝に埋まっている部分)の幅の関係性も、とても重要です。
フレットのクラウン部分(通常見える部分)に様々な種類があるように、タングの幅にも種類があります。
溝に対してどれだけのキツさ(もしくは緩さ)のフレットを打ち込むか、ということです。
タング幅に種類がありますが、その差わずか±0.1mm強といったところです。
しかし、20本のフレットを打てば、指板上にかかる力が、2mm分違います。
それだけの差でネックの反りは随分と変わってきます。
キツキツの本棚に、無理やり1冊本を入れるような感じでしょうか。
キツいフレットが良いわけでも、緩いフレットが良いわけでもありません。
ネックの反り具合、トラスロッドの利き具合を見極め、良いほうを選択することが重要だと思います。
フレットの長さをカットし、タングが指板のバインディングに当たらないようにフレットのタングをカットします。
その後、指板のカーブに合わせてフレットを曲げていきます。
また、こちらの楽器のように長年弾き込まれたものは、指板のエッジ部分(この楽器の場合バインディング部分)が、指との摩擦で丸く削れ落ちてしまっている場合が多いです。更には、1弦側と6弦側、ハイポジションとローポジションで削れ落ち方も違うので、場所によって曲げ方を工夫しなければなりません。
ここまでの下準備をしっかりと行い、後は打ち込んでいくだけです。
フレットのすり合わせ、ナット製作も完了です。
配線関係ですが、「スタンバイスイッチのポジションの位置に関係なく音が出ないことがあった」とのことでしたので一通りチェック。
配線のターミナル部分の絶縁が剥がれていました。ここのホット部分とアース部分がショートしていた模様です。
絶縁テープ巻き直しておきました。
最後にセットアップ(調整)を行い、リペア完了です。
ライブでこの楽器の音が聞けるのを楽しみにしています!